働く場所を選ぶ程度の能力

札幌近郊の田舎住み リモートワーク、田舎暮らし、農業、世界史、ポケモンが好き

「タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ」著小林宙 書評 & 今年は伝統野菜の栽培に挑戦したい話

前々から気になっていた本『タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ』を読んだので軽く整理。   honz.jp


著者の小林宙氏は15歳で「鶴頸城種苗流通プロモーション」という会社を起業した。
この会社の主力となる事業は「日本各地の伝統野菜の種の仕入れ・販売」である。 

種の種類は減っている

はじめに、現在の日本ではどんどん種の種類が減ってきていることが語られている。

野菜の種には
・固定種/在来種(伝統野菜)
・F1種
GM種(遺伝子組み換え作物)
がある。

・固定種/在来種(伝統野菜)

何世代も野菜の種を取って育てるを繰り返し、野菜の種の個性(甘い、丈夫など)を高めていった品種
人もみんな性格や見た目が違うように、野菜も種によって個性がある。
その個性を何世代も受け継がせることで、自然に個性の度合いを高めていくのである。
※伝統野菜は固定種に属する野菜。特定の地域で長く栽培されてきたものを指す
 例)桜島大根、賀茂なす、九条ネギ、みずな野沢菜

・F1種

固定種同士を掛け合わせて、味が良い、形が良い、均一・収穫用が多くなるなどの良い形質を遺伝させて作った品種のこと。(メンデルの法則が働いている)
例)甘いトマトと、病気に強いトマトを掛け合わせて、「甘くて病気に強いトマト」を作る。
スーパーで売っている野菜がみんな同じ形なのは、F1種の種から育てられているから。
昔は固定種が主流だったが、今はF1種が主流。(その過程で多くの固定種の種が失われてしまった。)
F1種のおかげで、味がよく、形の整った野菜を安定供給することができるようになった。(固定種と比べると味に劣ることもあるが・・・)

欠点
F1種のメリットである、形が均一・収穫量が多いなどの形質は一代限りで次の世代には発現しない。
つまり、F1種の種から育てた野菜から取れた種を植えると、形がバラバラ・育ちが悪いものばかりが生まれてしまうことになる。
F1種を育てたい場合、農家は種苗会社から毎年種を買わなければいけないのだ。

GM作物

遺伝子組み換え作物」のこと。
F1種との大きな違いは形式が遺伝すること。つまり、自家採種が可能になる。
現在国内で食用のGM作物は流通していないが、もし流通が始まればGM作物の種も流通するだろう。(著者はGM作物の是非については特に触れていない)

種子法と種苗法

さらに種子法の廃止と種苗法の強化。
種子法は「米の種を国が管理するの法律」だが2018年に廃止された。
もともと国で開発を行っていたのだが、現在は民間企業も米の種の開発をできるようになった。

種苗法とは「栽培した野菜から種を取ることを制限する」法律である。
種苗法の強化で、自家採種を禁じる品目が2018年に増えた。(国産ブランドの野菜が盗まれるのを防ぐのが狙いだそうだが)
このままでは将来的に自家採種そのものが禁止されるかもしれない。

種同士の競争が激化し、固定種が淘汰されるかもしれない

GM作物の種を売っているのは多国籍企業の大手種苗メーカーだ。
もし日本国内でGM作物の種が流通するようになれば、どうなるか。
種子法の廃止と種苗法の強化に乗っかって、多国籍企業が日本の種苗市場に参入し独占するようになる。そうすると、種同士の競争が激化する。
低価格のGM作物の種が流通する一方、個体数が少ない固定種が淘汰され種の種類がどんどん減っていくかもしれない。

伝統野菜の種を守るために日本中に流通させる仕組みを作る

種が世界からどんどん減っている。
この状況から種を守るために、小林氏は「鶴頸城種苗流通プロモーション」を2018年に設立した。
この会社の主力となる事業が「日本各地の伝統野菜の種の仕入れ・販売」である。

伝統野菜の多くは特定の狭い地域で栽培されていることが多く、ブランド化されていないため、知名度が低いものが多い。
そして、一度途絶えてしまえば手に入らない。

そこで日本各地の種苗店から伝統野菜の種を取り寄せ、販売し、伝統野菜の種を日本中で流通させる。
そうすれば減りつつある種を守ることができる。

種の多様性を守ることは大いに価値のあることだ

種の多様性を守ることは人類の生存戦略でもある。
1845年アイルランドでは収穫量の多い品種のジャガイモばかりを栽培していた時に、疫病が発生しジャガイモが全滅する「ジャガイモ飢饉」が発生した。
収穫量が多いだけでなく、病気に強い品種のジャガイモを栽培していれば、ジャガイモの全滅を防げたかもしれない。
これから温暖化が進むと、暑さに強い品種が必要になるし、小氷期に入れば寒さに強い品種が必要になる。
種の種類が多ければ多いほど生存に有利になる。

種を守ることは文化を守ることにもつながる。
様々な種を守ることで、伝統野菜をはぐくんできた地域の味や歴史や文化、様々な食文化を守ることもできるのだ。

伝統野菜の種をめぐる全国行脚の旅話。
朝顔がきっかけで植物に興味を持ち、家庭菜園をはじめ、種に興味を持ち、それが結果として起業につながった話。
会社経営にまつわる話、種に興味を持った話などがいろいろつづられており、そして「鶴頸城種苗流通プロモーション」で今後取り組みたい事業の話、これからも伝統野菜を守っていきたいという想いで締めくくられている。
具体的には、今後インターネットを通じて「タネ交換会」を行える仕組みを作る。そして、地域間の交流や伝統野菜の移動の加速化を考えているとのことだ。
(うまくいけば天王寺蕪野沢菜のように新しい伝統野菜が生まれるかもしれない)


まず何より、本当に高校生が書いた本か?と疑いたくなるほどよくできた本で驚いた。
種の概要や、種をめぐる状況について非常にわかりやすく解説されていた。
固定種、F1種、GM作物、種子法、種苗法など名前だけ知ってて詳しくは知らない・・・ような用語をしっかり理解することができた。
農業や種のことを体系的に勉強してみたい人にはお勧めの入門書である。
小林氏は書籍の中でこれまで身に着けてきた知識をもとに今後の種苗業界の動向を自分になりに考え、そして会社の経営方針を打ち出している。まさに経営者の鑑である。


本の最後の方で小林氏おすすめの伝統野菜が紹介されていた。
聞いたことがあるのは次郎丸ほうれん草だけだった(ホームセンターやダイソーでよく見るよね)
飛騨カボチャはゴーヤのような細長い見た目をしている。でもカボチャの仲間だ。
宮崎の佐土原茄子は江戸時代から栽培されていたが、一時途絶えてしまった。しかし2000年に残っていた4粒の種から奇跡的な復活を遂げた。
伝統野菜の世界は奥が深い。

自分が栽培してきた野菜がF1種か、固定種かとか今まで意識したことがなかった・・・
せっかく長い歴史を経て育まれた伝統野菜が日本にたくさん残っているのなら、面白そうだし今年は栽培してみたいと思った。
種苗店で直接探してみたいものだが、この状況なのでいろいろ伝統野菜のオンラインショップを調べてみる。

この辺とか。

小林氏が紹介していた、長野県のつる新種苗。
ドメインがすごい・・・
tane.jp

昔知り合いから聞いた、埼玉県の野口のタネ。
いろいろ固定種を取り扱っているらしい。 noguchiseed.com